Story

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ROCKIN' 60'S HIGH SCHOOL DAYS

語り手/むろけん
挿絵師/桃屋むらさき

“イェー! イェー! イェー!”

とビートルズがラジオから流れだし、ゴジラが東京タワーをへし折った後の人口一千万メガロポリス、TOKIOの青空に美しい五輪の輪が描かれ、“こんにちわ、こんにちわ~、世界の国から~”と日本中がお祭り騒ぎに浮かれていた頃のこと。東京は山の手郊外に、ウルトラ元気でオマヌケな子供たちの通う、にぎやかなハイスクールがあった。

 なにがにぎやかかといえば、それは少年たち、つまりボクたちの頭の中。だって、そうだろう!そうなんです。郊外マンション、億ション、ハクション、高級住宅が建ち並ぶ前のだだっ広い空き地は、風呂敷のマントをひるがえした月光仮面や鉄人28号、鉄腕アトムらが飛び交うスーパー・ヒーローたちの万博会場で、昨日は力道山の空手チョップが炸裂するプロレス・リング、今日は長嶋茂雄が横っ飛び~、ほこりまみれで白球を追う野球場、という日替わりドリーム・スペースだったのだもの。

 ちょっと小降りの雨の日でも、妄想メーターの針をちょいと上げれば、そこはたちまち風速40メートル、嵐のメリケン波止場ってことになり、タフガイ裕ちゃん、石原裕次郎の足の長さには遠く及ばないけど、発育途上の短い足を精一杯、宙に突き出してー

「フ、フ、フ、みんなまとめてかかってこ~い」

「ちょこざいな小僧め、名をなのれ!」

「赤銅鈴之助だあ!」

 あれ? 設定が違うんじゃない?と思っても、さめず、シラケず、盛り下がったりせずにドンドン続けてやっていくのが、あの時代の日本人すべての暗黙のルール。最初どんなドラマをやっていたのか忘れても、およびでない?


ぐらいでごまかし、役どころをコロコロ変えちゃうくらいは、あたりマエダのクラッカー!だったのだ。

 次から次へと現れる、たくさんの“時のヒーロー”の真似をし、観たばかりの映画の主人公になったり、ニュースやTVのギャグやCMを再演して、仲間たちと笑いころげるのに、ボクたちアーリー・シックスティーズのチルドレンは、体にたぎる情熱のありったけを賭けていたのだった。

 そんな天下無敵、ご意見無用、前段階の鼻ったれパンク予備軍のハラッパ・パーティを、即座に終了、解散させることができたのは、警察でも

「おまえら、ナニしちょるばい?」

という金八先生の言葉でもなく

「タダシ、ごはんだよ~!」と夕暮れの茜空に凛と響く、オカン、ママ、オフクロ様のあの一言。

「おれ、そろそろ帰るわ~」とタダシ君、ロカビリーごっこの箒も、樫の木にロープでぐるぐる巻きの小百合ちゃん役のよしこちゃんも、そのままほったらかしで、家路へといちもくさ~ん。

「帰って来て、シェーン~!」とまた別の役どころにワープしてしまったよしこちゃん。縛られていたロープほどきながら、その胸のふくらみに気づいたボクは、ドッキ~~ン、ドッカ~~ン!霧のカレリア、アストロノーツとなって大気圏外に飛び出すような未知の衝撃に身を震わせたものの、それは一瞬の出来事。

 グ、グ、グ、グ、グ~ッ。「ボクも帰ろ~っと」と走り出した頭の中には、もうボン・カレーか、スキヤキか~と今夜の晩ご飯のことしかない、色気よりも百二十パーセント食い気オンリーのガキでした。“まだまだネンネなのよね~坊やは……”と甘くやるせなく笑われようが、“カックン、オシャマンベ!”とののしられようが、若い血たぎるといったって、青春前段階のボクの体は、“腹いっぱい食べること”を至上命令にしていたのだった。

 あの時、送って帰らないでゴメンネ、よしこちゃん……。

 こうして多汗で、もとい、多感で、刺激いっぱい、太陽がいっぱい、あの娘のおっぱい……ポカリ、ン? 
とにもかくにも感受性豊かな生い立ちをしてきた郊外の中産階級のお嬢ちゃん、お坊ちゃんたちが集まってきたのが、ボクらのXジュニア・ハイスクールだった。PTAの会長は俳優の宇野重吉で、三年生には一年留年したという息子の寺尾聡がいた。さすがにまだ「ルビーの指輪」は歌っていなかったが、皮靴を履いて登校し、文化祭になると、後の人気GSグループ、ザ・サベージになる高校、大学生のバンド仲間をひきつれてエレキ演奏。なにしろカッコよかった。
校則では皮靴での登校は禁止されていたが、

「まあ、有名人PTA会長さんの息子さんだから……」ということで、学校側も大目に見ていたのだろう。

“このゆるさ、組しやすし!”と思ったわけではないのだが、アメリカからの引っ越しで戻ってきて、越境入学状態だった僕は、電車とバスの通勤・通学ラッシュで足を踏まれるのがイヤで、先輩の皮靴通学を見習った。しかし、始業式から一週間目の春闘ストのおかげで遅刻してしまった僕は、校門の所で張りこんでいた風紀係の教師の検問に、見事ひっかかってしまった。

「こら、おまえ! 遅刻だぞ! 皮靴の登校は禁止だ!」

いきなり頭ごなしの“こら、おまえ!”にはカチンと来たが、ひと呼吸、僕は深い息をすると、背筋を伸ばし、威丈高な鬼教師に向かって、悪びれることなく遅刻の理由を説明し、相手の怒り具合が腰砕けモードになってきたのを見てとると、最後の一撃を放った。一撃、といっても別に殴りかかったわけじゃない。「急がば回れ!」、当時大流行だったベンチャーズの曲の哲学的教えに習って、僕は両足をきちんとそろえると、深い、深い礼をしたのだ。

「すみませんでした。前の学校が皮靴の登校が自由だったものですから」

「ど、どこの学校に通っていたのだね、き、きみは……?」

「ニューヨークのフォレスト・ヒルズ・スクールです」

「そ、そうか、アメリカの学校か。それじゃあ、まあ仕方ないなあ……」

 最初の勢いを失って、そう言った鬼教師の目は、もうすっかり焦点を失い、その瞳には自由の女神と、熱弁をふるう若き大統領、ケネディの姿が浮かんでいた。鬼畜米英から敗戦、そして一転、「パパはなんでも知っている」「うちのママは世界一」「ビーバーちゃん」とTVからあふれでるアメリカン・ホーム・ドラマの影響と戦後民主主義教育の在り方……。今から振り返れば、あの時、あの年のいった先生の頭の中では、教師人生のメルクマール的転回が起きていたのに違いない。

 もっとも、僕の頭の中では弘田三枝子のヘレン・シャピロのカバー「子供じゃないのよ」がもうマックス・ボリューム。

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YouTube 「子供じゃないのよ」

“規則が多すぎるのよ、自由にさせてよ、早く大人になりたい”

とそれ以外、な~んにも考えていなかったんだけれど……。

 校則、いや、拘束から解かれると捕まっていた他の“落ちこぼれ、はみだし候補”の同級生が三人、僕のまわりに寄ってきた。

「ワー、カッコよかったぁ、J組の村崎ラムネ君でしょ。僕知ってるよ。理由なきハンコ!」と、いきなり人の手を取るなり、ハナマル印のハンコを手のひらにベタベタと押したのが町のハンコ屋の息子、ヤマグチ。黙って青っぱなをぬぐった手で握手を求めてきたのが高橋ダメ吉だった。(ダメ吉の父親が小学校時代の修学旅行積み立て金を競輪につぎこみ、ドロン。息子の夢をふみにじったばかりか、家を母子家庭にしてしまったということを、僕は後で知った……。)

 ダメ吉は国語の授業中、傍若無人だったか、慇懃無礼だったかの意味を訊かれ、しどろもどろ。苦し紛れに「うまく言えませんが、隣のクラスのラムネ君のような人のこと…」とやり、「そうか、意味するところはわかっているじゃないか!」と教師、猿田赤鬼大笑い。この日の皮靴事件とともに、たちまち学内にボージャク・ラムネ伝説をふりまいてくれた張本人だ。

 そして最後のはみだし野郎の姿を見た時、僕はビビった。だって、僕より首ひとつでかい、ニキビだらけであから顔のターザンみたいな奴が、グローブのような手を伸ばしてきたのだ。

「おれ、デマチ。今日から俺とおまえ兄弟。いいな?困ったことあったら何でも言う。用心棒でもなんでもしてやるぜ!」

 そして突き出されたデマチ君の小指は僕の親指よりも太かった……。小指のバージンは大切にとっておきたいと思ってきた僕だが、その勢いに飲まれ、あっさり喪失、となった。もしかするとこれって、兄弟仁義ってやつ? でも相手はかねてから“番長くん”の名で僕の耳にも届いていた、スーパー・アスリート少年のデマチくん。この中学生になっていきなりの喪失は、痛くなかったと言えば嘘になるけど、
でも、ちょっと嬉しいかもしれない……。

♪あなたがからめた小指が痛い♪……

僕を伊東ゆかりのように歌わせる、おまえの男くささって、なんなんだよ?

ガラスの美少女登場


ill-11.jpg その日の出会いがきっかけとなって、僕はデマチ、ヤマグチ、ダメキチという、ちょっといかれたチの字三人組と、涙と笑いに彩られた少しオフビートで十分にドラマチックな三年間を過ごすはめになった。そして最初に僕を見舞ったのは、かなりやばい出来事だった。
 僕のまったく知らぬ間に“X中学にあのデマチが兄弟盃をかわしたアメリカ帰りのヤンキー系番長が!”とか根も葉も大麻もない噂が広がっていたのだ!そしてこれまで見たこともないようなサイケな学ランを着たチンケな男が、いきなり教室の入り口に現れ、他校の番長の使いと名乗って、決闘状ーーいや、血闘場ってこれ誤字じゃないの?ーーなるものを突きつけてきた時には、チビリそうになった。

「やいやい、テメーか、ボージャック・ラムネって、皮靴登校してやりたい放題、学生服をアメ公たちのスクールみてえに廃止しちまおうって、スカしてカッコつけてるってヤンキー野郎は?バカヤロー、学ランは学生極道の華だぞ、命だぞ……ウンヌンカンヌン」。

 最初はドキンチョーで、この橋幸夫ヘア男のまくしたてるギリシャ語のような能書きを聞いていたが、IQの低さ丸出し。カンベンしてよ、とつかまれた胸ぐらを振りほどき、鞄を手にしたら、
「やいやい、逃げるのか!」とつっかかってきた彼の顎に僕の肘が大当たり。はた目には無手勝流パンチ炸裂。哀れ、ノックアウト状態になったチンピラ君は、教室の窓ガラスを倒して、一昔前の日活アクション映画の悪役のように、ど派手にぶったおれてしまった。

 教室に居合わせたクラスメイトたちは呆然としていたが、誰よりも愕然としていたのは僕……。
でもその時、僕は、事と次第によっては、僕と侵入者の間に飛び込むか、職員室に駆けこもうかと、近くに来ていてくれた彼女、藤野まどか嬢のことを思い出した。飛び散ったガラス片はその長い髪に降りかかってキラキラ……。

「ガラスの美少女って、こういうのを言うのかなあ」なんて、自分でもちょっときざでしょうか、と思うようなセリフしゃあしゃあと言いながら、ガラス片を取っていたら、破片で指先をチクリ。見る見るうちに広がる鮮やかな赤……。

「いやだ、ラムネくん、血が出てる!」そう言うといきなり自分の唇で僕の指先を包んだ彼女。

「ちょ、ちょっと待ってよ、いきなりは……中指のバージンまで……」と僕は声にならない叫び……でも何が言いたいんだろう、僕は……。目の前にあるのはボクを心配そうに見上げるつぶらな鹿のような瞳。そして鼻孔に広がっていく甘い髪の匂い。僕の感覚センサーは許容量をとっくに超えていた……。

 気がつくと、僕は保健室のベッドに寝ていた。
「おかしいっていうか、可愛いよね、あんなに強いのに、指先の傷を見ていて失神しちゃうなんて~」
「出町くんもすごいよね~。“この先は俺の出番だ”って神社の境内に一人で飛んでいって、決闘しに来た五中の番長、ボコボコにしちゃったんでしょ!」
「さっき顔出して、わたしたちいるの見たら、顔中真っ赤にしながら“全部かたづいたから、もう心配ないってラムネに言っといてくれ!”って。目も合わせないで言うのよ」

「キャー、しびれちゃうな、男たちの友情!」

「出町くんって女性恐怖症? だったら、まりえ、ちょっといじめてあげた~い!」

 カーテン越しに聴こえてくる声は、どうやら魔女たち、いやいや上原まりえ、中山真丘、藤野まどか、校内の男子生徒の間でもマドンナ・トリオと呼ばれている、仲良しキューティ軍団に違いない。まりえは僕の家族が海の向こうへ行く前の小学校四年生の時の同級生で、夏の多摩川園のお化け屋敷まわりをエスコートした思い出がある。あの頃はとても痩せていてオードリー・ヘップバーンのようだったけれど、今はもうソフィア・ローレン。女の子の体の成長と変化の不思議を他の誰よりも感じさせてくれた子だ。真丘は、いやそんな呼び方をしたらどこから尖った鉛筆やナイフが飛んでくるか、わかったものじゃない。小さな頃からアメリカ生活をしているうちにジャネット・リンの笑顔と、カレン・カーペンターの声を(ごめん、この形容はこの時代と時差あるけど)身につけていた彼女、ミス真丘さまは僕と同じように帰国子女仲間。イテテ……誰だ、靴をぶつけたのは? 
 とにかく、彼女と親しくなったあの春の都内バス旅行で、僕は十人や二十人の敵を作ったことは間違いないんだ。あの時のヤマグチの道化ぶりといったらなかったけどな……。

 なんであんなことになったのか、よくはおぼえていないけれど、たしか発端はあのトランジスター・グラマー・バスガイド。マイク握って「東京だよ、おっ母さん」を僕らの鼓膜の奥の奥まで痺れるような音量で歌い終わったら
「うまいなあ、ガイドさん!ボクら歌謡曲って滅多に聴かないから、う~ん新鮮! ねえ、そんじゃ盛り上がったところで歌合戦しませんかあ」と例の如く、ハナマル印のほめ殺し作戦。言葉巧みにマイクを奪うと、後はドーナロ、キャーナロバイ! 森山加代子の無国籍ナンセンス・ソング「じんじろげ」あたりから、「コーヒー・ルンバ」でアラビアへと抜けて、ハリー・ベラフォンテ「バナナ・ボート」の大合唱でカリブ海へと至れば、遠ざかる、遠ざかる二重橋。

 商店街二世のクラスのロカビリー・ボーイズは隠し持ってたギター取り出し、「ダイアナ」「オー、キャロル」そして“チュウチュウトレン”とカタカナ英語で舌噛みながら「恋の片道切符」でノリノリ。そうなれば偏差値、成績ワンランク高い連中も黙ってはいない。ギターを借りると“大声でわめくだけが青春の心模様じゃないぜ!”といわんばかりに、哀愁のハーモニーを循環コードにのせて、ブラザース・フォアの「グリーン・フィールズ」やPPMの「パフ」や「風に吹かれて」を、ちょっとメランコリーで、お利口さんの大学生という声で静かに歌い上げたもの。
 なんと歌合戦はアメリカン・ポップス対カレッジ・フォークソングという、アメリカン・カルチャーにしびれっぱなしで、日の丸?歌謡曲?そんなのおよびじゃない!とこの時代のヤポネシア・キッズならではの独断と偏見にどっぷりという内容のものだった。
「まずい、このままではシメの『高校三年生』が歌えなくなるわ!」とこの展開におびえたガイド嬢、「それではみなさん、そろそろ学園ソング決定版で歌合戦をおひらきということに……」と声をかけたが
「そうだラムネと真丘ちゃん!学園ラブソング『ヘイ、ポーラ』

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YouTube 「ヘイ、ポーラ」

でしめてほしいざんすよ?!」とトニー谷と化した売国奴MC野郎、ヤマグチに話の尾っぽをかっさらわれてしまった。
 かたや「せっかく反戦やエコロジーをアイヴィ・リーグの学生たちのように、歌で問題提起したのに、それを“クラス仲間はいつまで?も”なんて次元に落とさせてなるものか!よっ、ミス帰国子女、真丘ちゃ~ん、本場仕込みの英語で頼むよ~!」とクラスのエリート組の応援。かたやボクには「番長デマチも応援するなら、お~俺たちもブラザーだ。ラムネ、スカッと頼むぜ~!」と落ちこぼれのロカビリー組の大声援。ウーム、国会の政治家たちにとっても、ハイスクール・アイドルにとっても、人気なんてものは所詮、チョー微妙なパワー・バランスのなせるわざだ……。なんてことをあの時、異様な熱気と殺気を感じて息苦しくなっていたおいらは感じとった……なんてわけは、もちろんない。なんでボクが歌うはめになったの……でもたしかにこの娘、きゃわいいよ…わかった、いまボクがすべきことは、彼女と、ロミオとジュリエットのように、トニーとマリアのように愛を歌い上げて、反発しあうクラスの党派をひとつにすることなんでしょ。わかった、さあ、真丘、おいらの横にスタンバイ・ミー!

♪喧嘩しちゃ~った、まだ怒っているの? さっきごめんね……

 歌い出しは「けんかでデート」。そのゴメンネ、は運転手の横で頬をひきつらせながらも、けなげにも笑顔マスクを外そうとしないガイド嬢に先ほど以来の一同の無礼の精一杯のお詫びをこめて、歌ったつもりだったが、

♪♪もう、いいのよ……と歌うと真丘は途中から英語にスウィッチして、ウエストサイド・ストーリーの愛の名曲「サムウェア」のフレーズをはさみこんで、つまらない学園ラブソングをユニバーサルな舞台へといきなりアレンジ・レンジでやんの。ヘイ、ポーラ、そんな真似をすると俺の内なるアメリカン・ハートが本気になるぜ……。
 ねえ、ポール、あたしの目を見て、ずっと待っていたの。あなたのような人が現れてわたしを家に、故郷につれて帰ってくれるのを……。でもポーラ、きみの望む家はどこ? ここかい、それともあそこかい? わからないわ、ポール、でも、いいの、あなたが連れて行ってくれる場所がわたしのホーム、あなたのような誰かがわたしの愛を感じて、抱きとめてやさしい気持になってくれるなら、そこがわたしのホーム。感じているよポーラ、だから、きみもこのピュアな気持、受けとめてくれるなら、ほら、ぼくは……。いいのよ、もう言わなくても、だって、きっとみんないつか、ひとつの大きな愛の家に住むんだから……マイ・ラブ、マイ・ラブ!
 ボクは歌いながら、たわいのないラブソングが、賛美歌のような深い祈りの歌に変わっていくのを感じていた。これが魂ってやつなんだろうか、目と目をあわせて歌っていたら、彼女の魂ってやつが、ティンカー・ベルのような翼をつけて飛んできて、ボクの心の深い、深いところにあるそいつのありかを教えてくれたような気がしたんだ。そして歌っているボクらとは異次元なところにもうひとりの僕たちがいて、なんだかとてもいい話をしていたような……。
 歌い終わると彼女の頬には輝く真珠のような粒があり、その笑顔と涙はまわりの女の子たちや、Vサインを出しているアホヅラの野郎たちにも伝染していた。真丘ってすごい子だよな……。しかし、なんだって引率の赤鬼までが目頭ぬぐっているんだろ? 拍手喝采に応えて、二人で立ち上がってぺこりとやったら、次の日から黒板やら、学校のあちこちに相合い傘でふたりの名前が刻まれるようになった。どうせ、あのお調子者、ヤマグチあたりのしわざだろうけど、でもね、ちがうんだよ、本当は……。マイ・ラヴ・イズ・マ、マ、マ、……あれっ、わかんなくなっちまったい。

 保健室のベッドに横たわり、きれぎれの思い出に身をまかせていたら、体がまたブルブルしてきた。ハックショーン。なんだよ、保健室でマドンナ・トリオをひとりじめにしてるって偏差値少年たちが嫉妬してるのか?。
 「あれ、いまクシャミしてなかった? まどか、行って見ておいでよ。まだ寝てたら、キスして長い眠りから目をさまして上げたら~?キャーッ、ハハハハ!

 おい、おい、そんなすごい展開になっちゃうの……ど、どうしよう。でももしかして……。
ボクは慌てて、また瞼を固く閉じて、眠っているふりをして待つことにした。

  ドキドキドキ ……心臓が喉から出てきそうなぐらい激しくビートしてる……もしかして、もしかして……。

 でも、夢のプリンセスはいじわる魔女に変身して現れ、いきなりボクの唇ではなく、鼻の先を指でぐりぐり押すと、ボクの期待を見事に打ち砕いてくれた。

「こらあ、もう起きてずっと盗み聞きしてたんでしょ! ラムネくんなんかきらいだよ~だ!」


ヒーローが生まれた日

60年代後半に現れたヒッピー文化の本質は、誰もがヒーローになる!

そうでなければ自分の人生というムーヴィーの主役になるということだった。

そしてボクらのハイスクールにもそうした自己意識の変革の風がそろそろ吹き始めてきていた。
イカレポンチ、チの字三人組の中でそんな自己改革をして、最初にキャンパスのヒーローになったのは、なんとあの高橋ダメ吉だった。
きっかけは体育の授業での出来事。ダメ吉の家庭事情や心の傷を知らない新任の体育教師、三上は、その日、授業を見学すると申し出たダメ吉に理由を問いただした。他の授業でも休み時間中でも仲間たちとあまり交わろうとせず、青白い顔でいつも無口な彼を、今でいう“ひきこもり”のダメ生徒ととらえ、ずる休みに違いないと思ったのだろう。
「ち、ちがうんです。母さんが授業予定を知らずに体育着を今朝、洗濯しちゃったもんで……」
消え入りそうな声で必死に弁解するダメ吉。
「よーし、洗濯して干してあるなら、見に行って確かめようじゃないか。出町、みんなにバスケの試合をさせておいてくれ」
ill-2-(11).jpg だが、デマチは弟分ダメ吉が嘘をついていて、万が一しごきにでもあっては、と案じていた。
「先生、試合ならみんなでできます。俺も一緒に行きます!」身長185cmのデマチの言葉には大鵬の押しとファイティング原田もぶっとばしそうなパンチ力。三上先生には反論する力はなかった。
 そしてみんながやきもきすること30分、校門からダメ吉の白いトレパンを旗のように掲げ、颯爽とデマチが帰ってきた。片手にはVサイン! 体育館を走り出たボクらは、続いて帰ってきたダメ吉を取り巻き、肩を叩き、頭をぽかぽかやって、祝福のエールを送ったものだ。

「よっ、ダメ吉、正直者は人のカガミだ!」

 ダメ吉は、てれ笑いを浮かべて、頭をかいた。それはみんなが初めて目にした彼の笑顔だった。
「よお~し、みんな、先生からも一言だけ言っておきたい」……いまさら何を言い出すのかと思えば、「ガッチョ~ン! 高橋はえらいのだ~」
 三上先生は“気取りすましたカッコつけ野郎”というそれまでの悪評を、その一言でふり捨てたのだった。

 それからのダメ吉の変化はめざましかった。教室でもどんどん声を出すようになり、成績もウナギ登り。新しい学年になると、生徒委員になり、ついには生徒会委員長になのりを上げたのだ。全校生徒を集めた立候補演説には、誰もが度肝をぬかれた。
「みんながボクを活かしてくれました。だから今度はボクが、みなさんにお返しする番です。言いたいことはこれだけ。

「ガチョ~ン、ダメ吉だあ!」

 圧倒的な人気で委員長の座につくと、ダメ吉はかねてからみんなの希望が強く、懸案とされていた制服廃止案をまとめ、学校側と渡りあって承認させ、キャンパスにファッションの自由をもたらしてくれたのだった。こうしてリアル・ヒーローとなったダメ吉。だが、学内が色とりどりのカラーに包まれたにもかかわらず、ダメ吉は肘も尻もてかてかに光る、一張羅の学生服姿のまま。ダメ吉の成長と改革を祝って、三上がカラフルなトレーニング・ウェアの上下を送った時も、抜け目ない商売人のヤマグチがハナマル印にX ジュニア・ハイのロゴ入りトレイナーを作って大もうけ、その一枚を功労者にプレゼントしようとした時も、彼は頑として受け取ろうとはしなかったのだ。
「ボクはみんなが喜んでくれることをできただけで、十分にしあわせなんだよ」。真のヒーローは慎ましく、他人にやさしく、自分に厳しい、素晴らしい奴だったのだ。

屋上の怪人、権力と戦う

 だが、改革の風が吹けば、反動の嵐がやってくるのは世の常。“X中の生徒は毎日、授業のためではなく集団デートするために学校に来ている”という悪評がたち、締め付けのため保守反動のかたまりのような恐ろしい校長が赴任してくる、とニュースが入ってきたのは、ボクらが最終学年になる前の春休み中のことだった。“そ、それはマズい!”といちばん慌てたのは、毎日、いろんな女の子に“きみはボクのグッド・バイブレーション、月夜の浜辺をぶっとばそうぜ!” などとラジオのヒット・パレードから流れる歌の文句をつないだだけのラブレターを送り、浜辺ならぬ近所の川べりをチャリンコ二人乗りして、へらへら、浮き浮きやっていたボク、であった。
 床屋の息子から新しい校長はハゲ頭!という有力情報をキャッチした時、頭に!!!、ナンである、アイデアル、グッド・アイディアがジャンピン・ジャック・フラッシュしたボクは、四度の食事を二度に減らして真剣に対策案をこしらえ、ただちにデマチにそのプランを打ち明けた。
「よーし、こいつは俺にまかせろ!おまえは表に出るんじゃない!X中児の真の心意気をそのハゲ親父に見せてやろうじゃないか」ーー興奮でふくらんだデマチの鼻の穴が、実にたくましく思えた。
 そして待ちに待った始業式当日、ドラマはダイナミックに展開した。
「エー、私が本年度からみなさんの学校の……」整列した全校生徒を前に朝礼台に上がった相沢新校長の長?い挨拶が始まり、あくびのコーラスの中で終ろうとした時だった。赤いシャツに白いパンタロン・ズボン、黒いグラサン……ウエストサイド・ストーリーのジョージ・チャキリスと月光仮面が合体したような男が、朝礼台の後の三階の時計台の屋上にスックと姿を見せたのだった。新入生以外はそれが誰なのか、すぐにわかった。わきあがった歓声をしずめるように奴はゆっくり両腕を宙に伸ばすと、パチリ、パチリ、と指を鳴らす仕草。それを見るとたちまち生徒たちの間からパッチン、パッチン、指鳴らしコーラスが巻き起こった。予期もしていなかったこのハプニングに教師たちは大慌て、三上や赤鬼らが校舎の中に飛び込んでいった。
 その時だった。屋上の怪人の手から、長いひものついた巨大なやかんが投げおろされたのは!
朝の太陽に照らされて光り輝く金色のやかんと、校長のハゲ頭! このまぶしすぎる光景に生徒たち、仲間たちはみんな腹をかかえて大喜び。笑い声と歓声が校舎にこだました……。
 だが、それがけっして悪意ある行為でないことは、用務員室から調達した巨大やかんの横にマジックインキで書かれた文字からもわかるはずだった。
「WELLCOME、校長先生、X中にようこそ!」“おい、おいデマチ、Lの字がひとつ多いぞ……”
でも、驚いたことには、顔を怒りで赤くするかと思っていた相沢校長は、ニッコリと笑顔を浮かべて、屋上の怪人に嬉しそうに手を振ったのだった。ウ、ウ、ウ、調子狂っちゃうなぁ……。
 教師たちに取り押さえられ、校庭におりてきたデマチは後ろ手に縛られ、みんなの前をさらし者のように引き回されて、職員室の中に消えていった。だが、その前にボクの前を通り過ぎようとした時、彼は誰にも気づかれぬよう百分の一秒ほどのスピードで、ウインクを送ってきた。
「やったぜ!」
「ああ、いかしてたぜ、サンキュー!」
 ボクらの会話は誰にも聴こえなかったが、その時、映像はすべてスロー・モーションで奴はチャールズ・ブロンソン、ボクはアラン・ドロンだった。さらば、友よ! ドッキン、ドッキン、ドッキン……低音の心臓音はゆっくりクロス・フェードして、やがてそこには「太陽がいっぱい」のテーマが感動的に流れていた……。

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YouTube「太陽がいっぱい」

「あれは絶対にラムネの仕組んだことだ!」という声は、生徒仲間の間だけではなく、教師たちの間でも上がっていたらしい。だが、厳しい尋問にあっても奴は
「全部、俺がひとりで考えてやったことです!」と強靭につっぱり、ボクの名前を割ることはなかった。全国のキャンパスに学園闘争の炎があがるわずか前、スラプスティックな行動ではあったが、ひとりでも愛にもとづいたデモンストレーションをやりとげ、来るべき時代の到来を最初に予感させた男の名は、ボクの胸の中にちゃんといつまでも刻まれているのだ。

 そして学んだレッスンはーー男に必要なのは、英語力よりも人としての仁義ってやつなのだ!
 一週間後、奴に二ヶ月の停学処分が発表されると、ボクは怒りをポケットにしまい、委員長ダメ吉とマドンナ軍団の五人で校長室に乗りこんでいった。またしてもボクのやり方は、“急がば回れ!”抗議の表向きは脱脂粉乳問題だった。アメリカの酪農地の有力議員が日本の自民党代議士をまるめこんで密約を交わし、栄養も育ち盛りの子供たちの健康も無視して、大人たちだけの判断で全国の学校に強制的に支給を割り当てるとは、どういうこったい!
「わたしたちの成長に欠かせない、カルシウムやミネラルを含まない、あれはアメリカじゃ人間は飲まない、家畜用の飼料なんですよ!」
 まどかちゃんたち、未来の日本の母たちの熱弁は感動的で、真丘が用意してきた英語の資料も、
まりえの揺れる大きな胸も十分に感動的で、ボクとダメ吉はほとんど言葉もさしはさまず、熱心にうなづくばかりだった。終始、紳士的な態度で訴えに耳を傾けていた相沢校長は
「わかりました。飲む、飲まないの判断は生徒諸君の自由ということにしましょう。そして普通の牛乳を校内で購買できるようにしましょう!」と言って、ひとりひとりボクらの手を取った。
「キャッ、校長先生、ステキ!」と跳び上がったのはまりえ。あっ、そうだった、まりえの家は牛乳屋さんだったんだ。“そうだよ、成長には普通の牛乳の方がいいんだ、ボクはそのいい見本を知ってるよ……。”
 最後にボクらは出町くんが、ボクらとともに現在の日本の教育の在り方を、生徒の側から真剣に考えている仲間であることをアピールし(もちろん、嘘だが)、刑の軽減をお願いした。
「お願い、校長先生……」とまりえは身をよじってフェロモン光線攻撃。
「ほんとにオッチョコチョイな性格なもんですから……」そう言って、ひたすら詫び戦術のまどかちゃんはデマチの本物のねえさんのようだった。

ハートに火をつけて

 救出作戦が功を奏し、一週間後にデマチがヒーローとなって学園に帰ってくると、季節のメリーゴーラウンドは回り、回り、後は走馬灯。“あんな楽しいことを何も知らぬ下級生たちに任せてなるものか!”と、さめるという言葉を知らない快楽至上主義者たちの意を組み、学校始まって以来、三年生で文化祭実行委員長に立候補、またも当選して全権を掌握してくれたダメ吉くんのおかげで、夏休みが終わり、秋が始まっても、三年生の多くは、放課後も帰らず、バンドの練習に、あるいは学園祭の予行演習と称して、校庭に輪をつくり、オクラホマ・ミキサーやマイム・マイム・レッセッセに熱中した。
「おまえら、いい加減に家に帰って、受験勉強せんか~い!」と赤鬼先生たちは叫んだが、そこは思いっきり楽しんで、思いっきり学べ、という時代精神の鬼っ子たち。ついにカーニバル、いや、学園祭のその日が来ると、寺尾先輩とザ・サベージをトリに熱いバンド合戦の響宴を繰り広げ、仕上げは秋の夜空に赤く、赤く燃え上がるキャンプ、いやキャンパス・ファイアー!
“今宵その夜!”とばかり、気持悪くなるほど髪にバイタリスふりかけた少年たちと、髪をカールさせ、リボンを結んだ少女たち、“わたしのハートにも火をつけて……”といつしか、そのシルエットが重なりあい……。その夜、ボクに何があったかって? 記憶を失うようないいことにきまってんじゃん!ポカリ、ポカリ、アイテテ……。

 そして、冬が来て、春! 気がつくと、なんとなんと、X中の悪名高き三年生たちは、希望受験校合格率88パーセントと開校以来のめちゃんこ輝かしい金字塔的記録を打ち立てて、教師、PTA の父兄たちをうれし涙のプールに叩きこんだのだった。 ざまーみろ~!

最後のヒーロー伝説

 そういえば、仲間たちはみんなステキなヒーロー伝説を作って、この三年間のロッキン・ハイスクール・ライフにお別れしようとしているのに、俺だけはモテモテ・スーパーマンの称号以来、誇れるようなことは他になかったな、と、にわかにしょんぼりモードに入ってしまったボク。(あのヤマグチでさえ、合格したらリトル・ホンダを買ってやる、と強力な賞品につられて、猛勉強。志望校はおろか、他の誰かにゆずってやれよといいたいぐらい、受験戦争を全線全勝で勝ち抜いて“ハナマルくん”本物伝説を作ったのだ。)

 だが、神様はいたのだ。三月の学園生活最後のクラス対抗バスケットボール大会で、例によって電車事故のために大遅刻。試合終了10分前に姿を現すと、とたんに起こる“ラムネ、ラムネ”の大合唱! ど、どうしたんだよ、と思うまもなく、“時間がないからここで着替えて、早く、見てないから”と藤野まどかは頬を興奮で赤くして、仲間たちの円陣の中で着替えだしたボクに、デマチが釘を踏んで足を怪我したこと、おかげで苦戦していることをマシンガンのように説明してくれた。
 そして、選手交代でコートに立った瞬間、ボクはあふれるようなパワーにつつまれる自分を感じた。人生ってこんなものなのさ。落ち込んでいても、なにしていても、チャンスはいつか訪れる。そして今が、ボクにとってのその時、スコアは62対60でK組のリード、試合時間、残りは後……
“まわして、ラムネくんにボールまわして!”あれは真丘の声?それとも……。そんな考えを断ち切ってボクはパスされてきたボールに集中する。ゴールネットに集中する。ほら、おまえはあそこに飛んでいくんだ! GOOOOOOOO……!
 ボールがボクの手を離れた瞬間、ほとんど同時に試合終了の長いホイッスルが響きわたった。そして沈黙の3秒ほどの時間……長い放物線を描いて飛んでいったボールは見事にネットを揺らした。
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“キャアアアアア~” 大歓声がはじけとんで、勝利のホイッスルが会場に響きわたった。J組優勝~! とたんにボクは誰かに抱きつかれ、叩かれ、こずかれ、ハグとキスとパンチの嵐の中をさまよった。胴上げされながら、どうだい、真のスターは決める時に決めて、最後に人知れず微笑むもんなんだ~い!なんて一瞬思ったけれど、そんなことは、どうでもよかった。目から汗と涙が吹き出して、なんにも見えなくなって、右から左から女神たちが祝福のくちづけ、それもかなり長い時間してくれたような気がしたが、誰が誰だかわからないのが残念だった。
「え~い、女ども、どけどけ!」とデマチの乱暴な声がして、唇に蛸のような唇を押しつけてきた。またしても奴に“唇に男キス・バージン”を奪われている間、ヤマグチのよだれと、ダメ吉の青っぱなの涙ミックスがボクの両頬をびしょびしょに濡らした。

 神様、どうして祝福の順番を逆にしてくれなかったんだよ~!           



どですかでん、春の祭典

 卒業式の日、晴れがましくもくすぐったい正規のセレモニーが終了すると、(何故かこの日だけは、みんな学生服とセイラー服のトラッド・ファッションに戻っていた。みんなTPOという、あの一世風靡のおしゃれ哲学をきちんと理解していたのだ!)商店街二世のロカビリー組と偏差値優良エリート組の混成バンドが演奏し、最後はビーチ・ボーイズ、アカペラのクラシック・ナンバー、「グラデュエイション・デイ」の感動的なコーラスで幕を閉じた。

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YouTube 「グラデュエイション・デイ」

 だが、ボクらにはもうひとつささやかな、卒業の儀式が残っていた。企んだのは誰あろう、上原まりえ、中山真丘、藤野まどか、あのマドンナ・トリオだった。同級生男子たちはもちろん下級生の男の子たちからも、サインを求められ、記念撮影ぜめにされていた彼女たちは、追っかけたちをなんとかまいて、もらった山のようなプレゼントや花束をどこかに置いてくると、校舎の裏の花壇のそばに集まっていた。そこにヤマグチとダメ吉とボクの誘導でやってきたのが、スポーツ奨学生として某有名私立大学付属高校に招かれたわれらがX中のスポーツ・ヒーロー!
 「出町くん、出町くん、ねえ~」と呼びかけながら、三人の女の子たちは彼の前に並び、キュートでいたずらっぽい笑顔を浮かべながら言った。

「この三年間、ほんとに楽しかったよね」とまどかが口火を切った。もう赤い顔でうなずくだけの出町。「みんながいたから楽しかったんだよね」と真丘が続ける。相変わらず首振り蛸人間の出町。

「それでさ、特に楽しくしてくれた出町くんに……」そこでまりえがメッセージをひきとった。「わたしたちからお礼のプレゼントが、あるんだけど?受け取ってくれるかな?」もう湯気を吹いてサウナ状態の顔、唇からは泡を吹きそうな状態のコックリ君に向かって、マドンナ・トリオは
「これ~~~!」といっせいにセイラー服の裾をつまみ、スカートをまくりあげた。

レッド、イエロー、ピンク……出町くんの目の前に出現したのは三角のランジェリー、咲き乱れる花々の、春の祭典だった。思いがけないお祝いパフォーマンスを見学させてもらったボクの頭の中ではストラヴィンスキーと、ピンキーとキラーズの「恋の季節」がまじりあって流れていたが、出町の頭の中にはどんな音楽が流れていたのか、「エレファント・ウォーク」か?
「ウオーーーッ!」とひん死のマンモスのようなおたけびを上げて、出町くんは鼻血を吹き上げながら、ズドドドド~ン!地響きを上げてその場で卒倒したのだった……。
 出町くんはやがてやって来ようとしていたウイメンズ・リブ、自由な性の表現によって女性たちの解放、性革命をもたらした、影の功労者でもあったのだ!

三人娘.jpg 「卒業、おめでと~う!」
美少女たちから野獣への祝福のエールが、春風に乗って高く、高く上っていく……。

 こうしてドデスカデン、ドデスカデン、とにぎやかに鳴る時代の鼓動と、
熱い熱いハートのインパルスをシンクロさせ、発熱して、発情して、発狂したボクたち、
彼、彼女たちは、それぞれの心の花束を抱えて、思い出の学舎を後にして、
明日へと旅立っていったってわけなのだ。